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MusignyBlancがつれづれなるままに書きなぐる備忘録


by MusignyBlanc
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歴史の流れにおける現在(いま)

最近、リーマンショック、という言葉が流行になっているように、これから恐慌の時代がくる、とか、時代の転換点がきた、などとも言われています。MusignyBlancは歴史学や社会学が専門ではありませんが、「現在(いま)」が歴史的にどういう時代なのか、自分なりに考えをまとめてみようと思いました。これについては、以前の日記にも書きました。

まあ、2008年の今における自分の時代認識について、素人なりに記録を残しておこうというだけの意味であって、その道の専門家に意見しようとか、そんな大それたつもりは全くありません。

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二十世紀は、まさに戦争の世紀でした。前半は、第一次・第二次世界大戦に代表される「熱い戦争」の時代、後半は、米ソの「冷たい戦争」の時代。戦争の時代では、戦争に勝つことが最大の目的・正義であり、戦争に勝つためには、たとえコストがいくらかかろうとも、それが正当化されました。戦闘機のビス一本に百万円かかろうと、それで戦争に勝てるなら、良い、と。戦争に負ければ、全てを失うのですから、それはそうでしょう。

たとえ「冷たい」戦争の時代でも、高コスト体質は、かわりません。東西で、人、モノ、金、情報の全てが分断されていましたし、その制限された状況でモノ作りやサービスを行っていたわけです。戦闘機でも,戦車でも、戦争に勝つためには、コストが高くても、品質さえ良ければ、売れる。その風潮は、もちろん兵器だけでなく、民政品にも及んでいました。

日本は、まさに冷戦下ではアメリカの庇護の元に、軍事にはあまりお金をかけずに民政品だけを造ることを許されたので、大きく経済発展することができました。高くても品質が良ければ売れる、という戦争の時代が、言い換えればインフレ体質の時代が、日本の「高コスト、高品質」という得意技に見事にハマった訳です。もちろん、国民の努力もあったでしょう。

それが、冷戦の終結によって、大きく状況が変わりました。
世界は、グローバル・ボーダレスになり、人、モノ、金(資本)、情報の全てが、自由に行き交うようになりました。資本は、世界中をくまなく見渡して、少しでも投資に有利なところへと投下されることになりました。「インターネット」などのIT技術革命がそれを後押ししたのは、言うまでもありません。

たとえばアメリカ資本は、冷戦下では東ヨーロッパ諸国には投資などできませんでしたが、今では、そこに賃金が低くて優秀な労働力が沢山いる、となれば躊躇せずに投資します。そうやって、世界で最も投資に有利なところに資本が流れることによって、どんどんモノの値段が下がる低コスト体質の時代、つまり「デフレの時代」がやってきました。戦争ばかりしていた「インフレの時代」とは正反対です。

金融面から言えば、1980年代にイギリスのサッチャーによる金融ビッグバンと、それにひきつづいたアメリカのレーガンによる金融自由化による成果が、冷戦後の1990年代になってクリントンの時代に花開きます。日本は例外でバブルがはじけて喘いでいた時期でもありますが、欧米諸国では、デリバティブなどに代表される様々な金融商品が開発され、経済は大きく拡大しました。

それまでは、景気というのは、好景気と不景気との間を循環するものだ、と考えられていただのですが、1990年代になるとアメリカを中心とした欧米諸国では好景気がずっと続いていました。今までの経済理論では説明できない、いわゆる「ニューエコノミー」の時代、と言われたのもこの頃です。

なるべく政府は市場に関与しない、小さな政府に徹する。市場至上主義によって、経済は自律的に最適なところへと進む。冷戦後の平和な世界とインターネットなどによる情報化社会があいまって、景気循環を超越した持続成長可能な世界が到来した、というのがニューエコノミーの主張です。実際に、最近まではこれがうまく機能しているように、見えました。

十数年前に、社会学者のフランシス・フクヤマは、「歴史の終わり」という本で、人類は数千年来の試行錯誤を経て、これ以上無い、最良の社会システムに到達した、と主張するようになりました。冷戦後の社会は、そのくらい、「勝利」であるととらえられていたのです。

もちろん、冷戦後には、世界のあちこちで貧困とかテロとかの問題が噴出してきたのも事実です。サミュエル・ハンチントンは、それを「文明の衝突」と表現して、警鐘をならしています。また、地球温暖化の問題ももちろん大きい。(本当に問題になるのかどうかは、どの科学者もまだ確信はないでしょうが。)

ただ、ある程度安定した国々を見れば、規制をなるべくはずして自由化して、小さな政府で経済の自立性にまかせる、ヒト・モノ・カネも自由に国境をまたぐ、という「新自由主義」が奏功して、持続的な経済の拡大が見られてきたという訳です。ある意味、「アメリカ的グローバリズムの勝利」とも言えたでしょう。

一方、日本では対照的ではありました。戦後、冷戦体制下に機能していた官僚機構・産業界・政治のトライアングルが、世界的な規制緩和の社会に適合しなくなってしまいました。バブルがはじけたこともありますが、時代遅れと思われたその体制が、「失われた15年」を生んでしまったとも言えるでしょう。
 そして日本では、バブルがはじけてしまったことを恐れすぎて、「リスクを取って」投資をするという姿勢に欠けるようになりました。「あつものに懲りてなますを吹く」という状態だ、と揶揄されたりしたものです。ですが、このような慎重な、悪く言えば臆病な姿勢のおかげで、サブプライム・リーマンショックの影響を最小限に抑えることにつながったのですから、何が幸いするのかわからないものです。

とにかく、サブプライム問題が表面化してからは、世界経済の趨勢は大きく変化しました。サブプライム前まで、金融技術の発達とともに、複雑で理解しにくいデリバティブが出現してきました。信用の低い人たちの住宅ローンを証券化して、細切れにして、ファンドに組み込む、などその最たるものであったでしょう。結局、アメリカの住宅価格の低下と共に、その証券が暴落して、サブプライムショックが引き起こされた訳です。

それでもまだ、世界の投機マネーはその投資先を求めてさまよいました。サブプライム問題のせいで、証券や金融商品での投資がうまくいかないのならば、ということで目をつけたのが、原油です。もともと、市場が大きくない原油に一気に投機筋の資金が流れて、原油相場が暴騰します。また、その結果、バイオエタノール用のとうもろこしなどへの転作が増えるだろうという思惑から、とうもろこし、小麦、その他もともろの商品相場も値を上げました。

しかし、そうこうしているうちに、サブプライムショックのせいで、リーマンブラザーズなどの大手証券会社が経営危機を迎えます。それを契機に、お金を貸しても貸し倒れになる、という疑心暗鬼が蔓延して、信用収縮を起こし、お金が回らなくなる、いわゆる流動性の危機による金融不安、金融恐慌の様相を呈してきました。お金を貸してもらえなくなるのですから、とりあえず自前で現金を調達しないといけない。そうすると、たとえトヨタのような優良企業の株であっても、現金化のために投げ売りをせざるを得なくなり、結果として世界的な株価の暴落を招いてしまいました。

そもそも、冷戦が終結してからこの15年あまり、いかにして世界経済が拡大してきたのでしょうか?。そして、いかにして好景気が続いていたのでしょうか?。(日本は不景気でしたが、世界的には経済は拡大基調でした。)
 これは、ひとえに、世界中の人々がアメリカの力を信じていたからではないでしょうか?。軍事力でも経済力でも圧倒的な力を持っているアメリカだから、いくらドルを刷っても、赤字国債を発行しても、買い手がいるから大丈夫、という安心感というか神話のようなものを、みんなが信じていた。

今回の、サブプライム・ショックによって、我々はその神話が幻想に過ぎないのかもしれない、と疑い始めています。それが、直接的には現在の信用収縮による流動性の危機につながり、さらには消費の減退や設備投資の手控えなどによって実体経済にも悪影響が及び始めているようです。

もしかしたら、2008年は歴史の分岐点と記録されるかもしれない。米ソの冷戦に勝利し、世界で唯一の超大国となったアメリカを信頼することによってもたらされていた世界の安定、すなわち冷戦後の「パックス・アメリカーナ」が、ゆるやかに終焉を迎えているのかもしれない。
 まだ、確証があるわけではありませんが、そんな可能性を感じてしまいます。

それでは、これから先の世界はどのようになっていくのでしょうか?。20世紀のように、世界規模の戦争が起こるとは思えません。インターネット・IT技術の進化はまだまだ進むでしょうから、世界規模での情報の統合は進むでしょう。だけれども、行き過ぎたアメリカ主導によるグローバリズムに対する反省と反動は起きるのではないでしょうか。そして、国家としては、内向きに、規制の多い保護主義的なものになっていくのかもしれません?

とはいっても、情報化社会の進展は止められないでしょうから、個人と国家との間のアンバンランスな時代がしばらく続くような気がします。どこからか、何か新しい「秩序」が生まれてくるといいのですが、そんな「絵」を描ける政治家が出てくるでしょうか。

どう考えても、日本が主要なプレイヤーとなる筋書きを思いつけないのが、ちょっと悲しいですね。。。。
by MusignyBlanc | 2008-11-01 15:25 | 時事問題